交通政策審議会に「物流部会」設置、今後の物流政策を年内に太田国土交通大臣に答申
太田昭宏国土交通大臣はこのほど、交通政策審議会と社会資本整備審議会に対し、今後の物流政策の基本的な方向性について諮問。これを受け、交政審は交通体系分科会に「物流部会」を設置し、4月30日に東京都千代田区の国土交通省で社整審道路分科会基本政策部会と合同で、第1回物流部会を開催した。
太田国交大臣は、わが国物流について①経済成長や産業立地競争力強化への貢献②国民生活や消費者利便の向上③新技術の活用④物流事業者が求められる機能を発揮できる環境の整備―などの視点から検討を行い、「新たな物流政策を展開するための今後の方向性を速やかにまとめて推進を図る必要がある」ことを諮問理由にあげている。検討にあたっては、「中期的な物流政策」「広域物流」「地域物流」「その他」を視点に据え、年内に答申を行う。
中期的な物流政策については、「国土のグランドデザイン2050」や「社会資本整備重点計画」などを踏まえ、労働力人口減少に対応した物流の効率化・省力化、既存ストックの有効活用などについて検討。
広域物流については、モーダルシフト促進やトラック輸送効率化などに向けた事業者間連携などについて話し合うとともに、国際コンテナ戦略港湾と鉄道貨物の連携に向けた海上コンテナラウンドユースや背高コンテナ対応低床貨車の開発などについて検討する。
地域物流については、大都市での共同輸配送促進や再配達削減のほか、過疎地での持続可能な物流ネットワーク構築に向けた検討も行う。
その他、災害対応力向上やドローンなどの新技術の活用、わが国物流システムの海外展開に向けた人材育成などについても話し合う予定。
物流部会は、野尻俊明流通経済大学長を部会長に、学識経験者、有識者、労働組合代表の合計15人で構成。社整審道路分科会基本政策部会は、家田仁東大政策研究大学院大学教授を部会長に12人で構成されている。8月下旬に第2回合同会議を開き今後の物流政策のあり方についての中間取りまとめを行うが、それまでに関係者ヒアリングやフリーディスカッションなどを含めた小委員会を3~4回開く。
広範にわたり多様な意見
第1回合同部会では、物流部会設置の目的や検討の視点、物流をめぐる状況などについて事務局が説明。その後、各委員が意見を述べた。委員の発言要旨は次のとおり。(発言順、氏名前の◎は物流部会委員、○は基本政策部会委員)。
◎永峰好美読売新聞東京本社編集委員=消費者の目線では、モノがどのように手元に届くかが見えにくい。再配達削減も消費者の利便性をどのように確保するかの視点が必要。
◎二村真理子東京女子大教授=消費者が物流について“心配しなくていい”ことが重要で、物流の中身は見えなくて構わない。物流政策は国が、“選択と集中”でやるべき。
◎矢野裕児流通経済大教授=人材不足などで荷主が輸送事業者に負荷を押し付ける商習慣が崩れつつあり、安い運賃を前提にした物流システムも変わる可能性が高い。
◎西村悦子神戸大大学院准教授=過疎地でも現状はモノが問題なく届いていると感じるが、旅客部門の交通が手薄になっているので、貨客混載の検討が重要。
◎小林潔司京大経営管理大学院経営研究センター長・教授=物流の小口化が進んでいるということは、まだ買い物需要は飽和していない。ICタグや静脈物流の検討も行うべき。
◎苦瀬博仁流通経済大教授=災害物流では、物資の備蓄だけではなく、日常的な補給とのバランスを考える必要がある。
◎岡田孝日本総合研究所主席研究員=モーダルシフトは、JR貨物だけではなく、他のモードの活用も必要。
◎圓川隆夫東京工業大名誉教授=サプライチェーンをつなぐ技術ができて、物流が“見える”ようになっている。ムラや無駄が出ないよう「見える化」に向けたインフラが必要。
◎羽藤英二=東大大学院教授=物流活動のデータをどのように構築・運用するかを考える必要がある。過疎地での物流を維持するには効率化が必要で、地域の拠点の共有化・活用が重要。
◎根本敏則一橋大大学院教授=大型車の過積載は取り締まりを強化する必要があるが、これとは別の議論としてコンテナの国際標準に合わせた車両の大型化は必要。
○久保田尚埼玉大大学院教授=道路安全の視点も必要。現状見られる道路を使った荷待ちはおかしい。自転車を含めた道路空間の利用も考えるべき。
○勝間和代中大ビジネススクール客員教授・経済評論家=何が物流のボトルネックになっているかを三つくらい挙げるべき。物流の情報インフラは複雑なので、国が整備すべき。
○朝倉康夫東京工業大大学院教授=“公”の持つ情報は公開するのが原則。災害時の緊急物資は平常時にも“回す”仕組みが必要。
○家田基本政策部会長=物流では10年ぐらい同じ課題を取り上げているが、長い目で見て何が必要かを考えるべき。日本の物流が世界のトップランナーになるよう5~10年で課題解決を達成するという感覚も必要。また、国民が協力しなければ“いい物流”にならないというコンセンサスを醸成するべき。
◎野尻物流部会長=トラックは、これまで供給過剰の状態が続いてきたが、これからはそうではなくなる。トラック産業は、構造的転換点にきている。