過疎地の物流網維持でNPOの活用検討、来年度モデル事業実施へ 国交省
国土交通省は過疎地などでの物流ネットワーク維持や宅配便を活用した生活支援サービスのあり方などを検討するため「地域を支える持続可能な物流システムのあり方に関する検討会」を設置。10月29日に東京都千代田区の同省で第1回会合を開き、過疎地での物流サービスの現状報告などを行うとともに、来年度予算概算要求に盛り込んだ物流事業者とNPOの協働による宅配・集荷などのモデル事業についての役割分担のイメージを示した。
検討会は、過疎化により貨物の集配効率が低下する一方、クール便や時間指定など物流事業者の負担が増加する状況下で今後も物流ネットワークを維持・効率化するための方策を検討するとともに、宅配ネットワークを活用した買い物支援や“見守り”などの生活支援サービスの課題などについて議論する。また、NPOなど、新たな宅配・生活支援の担い手によるサービス提供に関しての課題点についても話し合う。
委員は、野尻俊明流通経済大教授を座長に、大庭靖雄日本物流団体連合会理事長、關祥之日本郵便物流法人営業部長、中西洋丈佐川急便営業部営業課長、福田靖ヤマト運輸構造改革部長ら物流関係者のほか、学識経験者や吉田満青森県西津軽郡深浦町長などで構成。
第1回会合では、事務局が、地方では高齢化や過疎化が急速に進行していることを説明した上で、宅配便は通販市場の拡大などにより取扱個数が増加する一方で、過疎地では集配効率が低下していると報告。ある物流事業者では荷物1個当たりのトラック走行距離が都市部の約0.2キロメートルに対し、過疎地では約1.2キロメートルと約6倍を要していることなどを説明した。また、過疎地ではいわゆる“買い物弱者”や“孤立死”が増え、買い物支援や見守りサービスが求められているとした。
さらに、NPOが買い物支援や高齢者の見守り、農産物の販売支援などを行っている例があるとして四つの事例を紹介し、「NPOは近年急速に増加しており、今後の着実な増加が期待されている。地方自治体やNPOなど地域コミュニティーとの連携により、効率的で地域ニーズに即した生活支援・宅配サービスの提供が可能になるのではないか」とした。
また、愛媛県内子町で昨年行われたバスによる農産品出荷の実証実験やヤマト運輸が高知県大豊町と連携して行っている見守りを兼ねた買い物支援サービスについても紹介。内子町では、週に数日運行しているデマンドバスに住民の農作物を載せる「貨客混載」の実験を行い、実験後のアンケートで出荷者の9割から「今後利用したい」、旅客利用者の64%から「運用上問題ない」との回答を得た。
自治体ではノウハウが不足
国交省が9~10月に全国の市町村に行ったアンケート(回答1019市町村)では、「既存の宅配サービスに付加して現在取り組んでいる戸別訪問型サービス」の質問に対し、「高齢者の見守り」(326市町村)の回答が最も多く、以下、「給食サービス」(184市町村)、「買い物支援」(167市町村)などの順となっている。また、今後取り組みたいサービスは、「買い物支援」が298市町村で最も多く、以下、「高齢者の見守り」(239市町村)、「バス、タクシー、NPO運送の活用」(144市町村)などの順。
さらに、取り組むに当たっての課題点については、「行政機関のノウハウ不足」(359市町村)、「地域の人材不足」(336市町村)、「行政機関の資金不足」(315市町村)などとなっている。
来年度、経産省と連携で予算要求している「小さな拠点」(地域の活動拠点)のモデル事業では、域外からの貨物や域内商店の商品を小さな拠点に集め、物流事業者とNPOの協働による宅配・集荷を行い、NPOに求められる輸送、荷扱い品質などの能力や関係者の役割分担などについて検討を行う。検討会は今後、年内に第2回会合を開き、小さな拠点の構築による物流体系整備や貨客混載のあり方について話し合うとともに、青森県深浦町での集配共同化や他のサービスとの複合化などに関するケーススタディについて報告する。
なお、交通政策審議会自動車行政小委員会でも「貨客混載」についての議論が開始されたが、地域を支える持続可能な物流システムのあり方検討会では、トラックへの旅客混乗については議論の対象としない方針。
その後、年明けに第3回会合を開き、取りまとめの骨子案を提示、年度末に取りまとめを行う。